
あなたと未来の医療のために、日本のドラッグロス問題を知ろう
皆さんは「ドラッグロス」という言葉を聞いたことがありますか? このドラッグロスは、私たち自身や未来の世代の健康に大きな影響をおよぼす可能性がある、深刻な問題です。この記事では、ドラッグロスの現状とその背景について詳しく解説していきます。
ドラッグロスとは?
ドラッグロスとは、新薬の開発に莫大な時間と費用を投入したにもかかわらず、効果や安全性が確認できず開発が中止されてしまうケースを指します。また、すでに海外で承認され使用されている薬が、日本では承認が遅れる、あるいは承認されず使用できない状態を指す場合もあります。
なぜ日本でドラッグロスが起こるのか?
かつて日本は、世界の医薬品市場をリードする存在でした。しかし、1980年代に25%以上あった世界シェアが、2023年にはわずか4.4%まで低下しています。その背景には、以下の3つの主な要因が挙げられます。
1. 治験の難しさ
新薬を市場に提供されるためには、臨床試験(治験)が欠かせません。しかし、日本ではグローバルな医薬品開発の優先順位が相対的に低くなりがちです。その一因として、日本人被験者による臨床データの必要性が挙げられますが、日本国内の治験実施には、さまざまな課題が複雑に絡み合っています。<まず治験にかかる費用が世界的に高騰しており、企業にとって大きな負担となっています。一方で、日本では治験参加者への謝礼金が海外と比べて低く設定されており、参加者の確保が難しいという問題があります。さらに、メディア報道などによって助長された医療不信や、治験に対する誤った認識、過度な警戒心が根強く、「モルモットにされるようで嫌だ」、「得体の知れない薬は使いたくない」といった不安や、過剰な副作用への懸念から、治験への参加をためらう人が多いのが実状です。さらに、国際共同治験においては、言語の壁が大きな障害となっており、データの翻訳や関係者間のコミュニケーションに多大な時間と労力を要する点も課題です。そのため、人材の育成や環境整備を進め、スムーズなコミュニケーションが可能な体制の構築が求められています。加えて、日本には新薬の発売時に患者のモニタリングを義務付ける独自の規制や、「週間処方ルール」※ といった特有の商習慣が存在し、これらが企業にとって日本市場参入のハードルが高くなっている要因となっています。こうした複数の要因が重なった結果、日本市場への参入を敬遠する企業が増加し、ドラッグロスにつながっています。※ 新薬は薬価基準収載後1年間、1回の処方日数が最大14日分に制限されるルール
2. 薬の価格設定の問題
日本では薬の価格が定期的に引き下げられるため、製薬会社にとって十分な利益を得るのが難しい状況です。新薬開発には莫大な費用がかかるため、企業は投資に見合ったリターンを得られる市場を優先します。しかし、日本の薬価政策は、そうしたインセンティブを阻害しており、新薬の開発や導入が遅れ、さらには「ドラッグロス」や「ドラッグラグ」の原因となっています。特に資金力に限りのあるたバイオテクノロジー企業にとっては、日本市場への参入が一層困難になっています。
3. 新しい技術やアイデアが育ちにくい環境
日本では、バイオテクノロジー分野にとって、特にスタートアップ企業が育ちにくい環境があります。その背景には、資金調達の困難さ、人材不足、経験不足などが挙げられます。例えば、新規バイオベンチャーによる資金調達件数を比較すると、米国では年間平均約2,200件、ヨーロッパでは約1,000件に対し、日本では100件未満にとどまっています。また、ベンチャーキャピタリストや起業家といった専門人材の不足しており、経験を積む機会も海外に比べて限られています。こうした環境では、新しい技術やアイデアが十分に育たず、結果としてドラッグロスの悪循環が生じています。
日本の医療の未来のために、私たちができること
ドラッグロスを減らし、日本の医療をより良くするためには、新薬開発を促進するためさまざまな取り組みが求められます。 その一つとして「海外の治験に日本人が参加する」という方法があります。 海外の治験に日本人が参加することで、日本人特有のデータが収集され、新薬が日本の市場により早く提供される可能性が高まります。
まとめ
ドラッグロスは、私たちだけでなく、未来の世代の健康にも深く関わる重要な課題です。 政府、製薬会社、そして私たち一人ひとりが関心を持ち、協力して取り組むことで、日本の医療の未来はより明るいものになると私たちは信じています。
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引用文献
日本のドラッグロスとドラッグラグ:現状分析と再生への提案 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所