治験に日本人の参加者が必要な理由
新しい薬の安全性や効果を確認する治験では、さまざまな地域・人種の方の協力が欠かせません。たとえ海外で開発が始められた治験でも、日本国内で使用される場合、日本での承認を受ける必要があり、そのため日本人を含めた治験データが求められる場合があるからです。
人種によって薬の効きやすさが異なるから
飲み薬は胃や小腸で溶け、体内へ吸収されて効果が現れます。その後、肝臓で分解・代謝されて体外へ排出されます。お酒の強い人・弱い人がいるのと同じように、薬を代謝する能力にも高い・低いがあります。もし薬の代謝能力が低いと、薬が体内により長く留まるので、薬の作用が強まったり、副作用が発生する可能性が高くなります。
この代謝能力が人種によって異なることが、近年の研究により分かってきました。例えば、日本人の約20%は、薬の代謝に必要な酵素の1つ(CYP2C19)を持っていません。「海外の薬は日本人には効き目が強い」と聞いたことがある方もいると思います。薬は販売される地域の人が効果を得られるように成分が調整されています。
このような理由で、人種ごとに安全に効果が得られる最適な用量を決める試験が必要なのです。
人種によって病気のメカニズムが違うから
同じ病気なのに、人種によって原因が異なるという理由もあります。2型糖尿病を例に説明します。糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンというホルモンの働きに問題が発生して起きる病気です。日本を含むアジア人では、インスリンを作る機能が弱くなる(インスリン分泌低下)患者が多いのに対し、欧米人は肥満などでインスリンが働きにくくなる(インスリン抵抗性)患者が多い傾向にあります。病気になる背景・メカニズムが違うので、それぞれのタイプに適した薬が必要です。
このように特定のターゲットに向けた治療薬を開発する場合、展開する地域・人種を考慮した治験が、より有効で安全な治療薬にするための一翼を担っています。
まとめ
薬の効き目は人種差があり、住んでいる地域や食べ物などの影響も受けます。病気そのもののメカニズムが人種によって異なるケースもあります。そのため、さまざまな人種・地域の方を対象に含めた国際的な治験を行い、安全性などを確かめる必要があるのです。
参考HP
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【ASENTリポート】No.2 人種・民族差、外国データの扱いなどを議論, 日経メディカル
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大日本住友製薬 身体を旅する薬のこと
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